2024/11/10
現在まだマイコプラズマ感染症は流行中です。インフルエンザは徐々に増加傾向です。COVID-19感染症は、現在落ち着いています。気温の急激な低下による天候の変化やマイコプラズマ感染による咳喘息や気管支喘息発作の方が、非常に多くなっています。今後季節は冬へ移行していきますが、まだまだ気温変化が強い時期が続くと思われます。健康管理に努めましょう。
今年の夏以降、マイコプラズマ感染症が、記録的な発生数で長期化しています。今年の流行は、直近流行した2016年を上回っています。以前は、なぜか4年ごとにオリンピックの年に流行するので、「オリンピック肺炎」などと称されていましたが、近年はその傾向はなくなっています(しかし、今年はパリオリンピックでしたが)。昨年は、中国や欧州で秋に流行がありました。
主たる症状は「咳の悪化」です。多くは発熱を伴いますが、発熱がないこともあります。明らかな症状がなく自然治癒する場合もあります。発熱がなく、1週間以上激しい咳が経過している場合に、胸部レントゲンですりガラスのような陰影がぼやっと見つかることもあり、強く疑われます。このように発熱がなく、一応日常生活が送れていると、菌が周囲にばらまかれてしまいます。「歩く肺炎」と言われる所以です。厄介なのは、精度の高い迅速な検査方法がないことです。咽頭ぬぐい液でマイコプラズマ抗原が検出されると確定できますが、軽い肺炎あるいは肺炎を伴っていない場合などの検査精度は落ちます。また、採血でIgMという感染急性期に上昇する抗体を測定する方法もありますが、こちらも確定できない欠点があります。理由は、成人では、IgM抗体の反応が悪く、また小児では感染後の抗体反応が強く、長期にわたって検出されるためです。ですから、流行の有無と症状、検査所見から推定せざるを得ないことが多くなっています。このような状況ですと、熱がない激しい咳で、何でもマイコプラズマ感染と診断してしまうリスクもあります。それにしても、現在迅速検査が陰性でも、「マイコプラズマ肺炎」を強く疑う方は非常に多くなっています。これは明らかに2016年の流行を上回っています。感染直後から、気管支喘息発作を合併することもあります。咳の遷延で咳喘息となることはよくみられます。
治療方法は、有効な抗生物質を投与すれば、症状は改善に向かいますが、近年では、以前有効だったマクロライド系に対する耐性菌が増加し、効きにくくなっています。その他、ニューキノロン系、テトラサイクリン系の抗生物質も有効ですが、小児では使えない薬剤もあり、使用が限られます。また、咳がひどい場合、咳喘息や気管支喘息発作になっている場合もあるので、同時に吸入薬やステロイド投薬も必要になります。今年は、コロナ禍で流行しなかった感染症が、いろいろ流行っているので、マイコプラズマ感染もその一環かもしれません(小児では夏以降手足口病の流行がみられています)。
最近マスコミで「インフルエンザの流行期に入りました」との報道がありました。まだ大流行には至っておらず、徐々に散見されるようになってきた状況です。しかし、急速に流行が拡大していくことがあるので、十分注意が必要です。現在、発熱、寒気、咳症状の場合、COVID-19感染、インフルエンザ、マイコプラズマ感染どれも鑑別しないといけなくなっています。
咳の悪化の原因は、上記のような感染症や天候変化が原因のことが多いですが、それまでに疲労、ストレスなどが蓄積していると、より増悪、長期化しやすくなります。特に、女性では、産後、あるいは産休明けの勤務時期、更年期などで、悪化しやすくなります。疲労、ストレスが溜り、精神的に滅入っていると、改善は遅くなりがちで、吸入薬だけでなく、適宜漢方の併用、あるいは精神的な問題を抱えていると、メンタルの治療が必要になることがあります。これまで外来で何度も聞かれていることですが、いわゆる「咳止め」はこのような症状には無効です。さらには、コデイン含有の咳止めは、より悪化させることがあるので、注意は必要です。
咳関連だけでなく、どんな病気でも、精神面の安定は非常に重要です。病気になると、誰でも落ち込むものですが、病気に陥る前段階で、気分の低下や疲労が強いと、改善はより悪く、遅れます。日々の体調管理は、精神面も非常に重要であることを、日々の診療から思い知らされます。
四季の変化が強い日本に住む私たちは、天候に順応して生活していくことが非常に重要です。天候に私たちは影響され、体も変化していきます。普段から自分の体は自分で守る努力が必要です。それは、季節に沿った食事を含めたライフスタイルを送ることであり、持病のある方は、基礎疾患をしっかり管理しておくことです。
食生活と運動は特に重要です。食生活では、その時期にあった食生活を心がけましょう。甘いものの過食や飲酒過多は体を弱らせます。戸外での運動も大切ですが、室内で出来る運動もあります。マット1枚あれは、体操やストレッチ、軽い筋トレはすぐ出来ます。毎日10-15分で良いので、仕事とは別に体を動かす習慣づけをしましょう。
これから、次第に寒暖差を伴いながら、冬に向かっていきます。猛暑で弱った体を癒しながら、寒い冬に備え、体調を整えていきましょう。冬は、インフルエンザの流行だけでなく、COVID-19感染も増えていくと推測されます。しかし、むやみにマスコミの報道に煽られずに、自ら日常生活を見直していきましょう。ストレスや疲労をためない工夫をしながら、心を病まずに出来るだけ楽しい日常生活を送るように努めることが何より大切です。